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アンダードッグ
「ったく、ハイエナ風情が歯向かってんじゃねぇよ、この負け犬」
ブサイクなツラした野良オオカミたちがオレを囲んで見下ろす。ついでに汚ねぇツバを吐き捨てて、どこかへ消えた。
「(勝手に絡んで来たのはそっちじゃん……)」
カラダのあちこちが痛い。やっとの思いで、放り込まれた臭っせえゴミ溜めから這い出る。カラダにできちまったアザはなんとかごまかすとして、顔は…おそるおそる触ってみたけど、瞼が腫れたりとかは多分なさそうだ。鼻血が乾いて固くなってる。とりあえずあっちの川で血と泥を落として帰ろう。っていうか仕事あがったのが夜中の二時過ぎで、帰ってくる途中でアイツらに遭っちまったから、だいたい朝の……四時半過ぎぐらいかな。あぁやばい、もうすぐばあちゃんが起きる時間だ。
こんなことは日常茶飯事だから、別にどうも思ってない。この街に住む人間はみんな、一日がすべて。一日が終わったら、明日。その繰り返し。家と仕事があるだけいい。今だって、手足が棒みたいに痩せた子供と目が合った。どこかから拾ってきたような金属の破片みたいなガラクタを売ってる。……悪いけど、うちももうこれ以上は食わしてやれねぇんスよ。
ウチに親はいない。父親は物心ついた時にはもういなくて顔すら知らないし、母親は気休め程度のマドルを数枚オレの枕元に置いて、ある日突然いなくなった。サンタクロースのプレゼントでもあるまいし。すぐ後ろで響いてた小さい弟や妹たちの泣き声だけが耳に残ってる。
ミドルスクールの学費は自分で稼いだ。でも家族を食わす分もってなるとやっぱフツウの仕事じゃムリだったから、人に言えないこともやった。街でいつも仕事を紹介してもらってる仲介人のオヤジが、
『ラギーくんはいつも頑張ってるから特別に教えてあげるよ』
って。最初の頃は相当カラダがキツかった。そりゃそうだ、出すトコに入れようとしてんだから。……まぁ、こんな貧相なモンでも需要があんだな、信じられねぇシュミ、って思ったっけ。あの頃には二度と戻りたくない。
魔法士なんて正直オレには関係ないって思ってた。魔法だって、ガキ共を喜ばせるためにたまに見せてやるお遊びの道具…みたいな。レベルの違いはあるけど、魔法士として成功できるのもほんの一握りだって聞いたことがあったから。
でも黒い馬車が迎えに来た時。
──やっとオレにもツキが巡ってきた、まだオレは這い上がれる。
そう思ったんスよ。
オレみたいな人間には、サバナクローは居心地がいい。わかりやすい実力主義。強い奴が群れのアタマ。たとえ相手を欺いて勝ちを得たって、それも実力。
仲良しこよしなんて求めてなくて、言ってしまえば『仲間』なんてのもいらない。這い上がるためにここに来たんで。
──俺は負け犬じゃねぇ。骨だって噛み砕く、ハイエナなんっスから。
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