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タバルサ
ゲーラを失ってからのメイスといえば、片時も離さなかったはずのギターにずっと背を向け、死んだ魚のような目で虚空を見つめてベッドに横たわったままであった。開きっぱなしの窓から吹き込む風に煽られ、いくつかの紙切れがひらひらとテーブルから舞い上がる。メイスはそれを黙って見届けた。拾ってやろう、などと今の彼が思うはずもない。二週間ほど前から着手した、書きかけの歌詞。ラブソングになるはずの新曲だった。
昨日は昨日で、冷蔵庫にストックしていたあらゆる酒をこれでもかと煽った。いつか一緒に飲もうと話していた貰い物のワインやシャンパンのボトルだって、たった一人で何本も空にした。しかし身体に満ちるのは酔いでいっそう膨れ上がってしまったむなしさと、過度の飲酒により込み上げてくるあの嫌悪感だった。メイスは口内に湧いてくる唾液とむせ返るような感覚を喉奥に覚えた直後、のそのそとベッドから這い上がりバスルームへと直行した。
味わいもせず流し込むように飲んだ酒を胃液ごと吐き出したところで、この仄暗い感情が一緒に消えてくれるわけでもない。はぁはぁと肩で息をしながらその長い濃紺の髪を肩にかけると、汚れた水面にひとつ、涙がこぼれ落ちた。
ついさっきまで彼の体内で消化され混ざり合ってぐちゃぐちゃになったそれを見ないようにして、手探りでレバーを手前に引く。勢いよく流れていく水の音を聞きながら、いまだ残る虚無や後悔、そしてゲーラへの未練を引きずるようにしてメイスはまた寝室へと帰っていくのだった。
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