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灯火
隠れ処から思いのほか近い場所に集落があったことに、メイスは安堵した。ゴーストタウンと化した此処は家屋こそ朽ちているものの、物資に関してはまだ使えそうなものも多かったので、目的である車二台の他に毛布や保存食なんかが山ほど手に入った。収容所から共に脱走したバーニッシュの中にはまだ幼い子供や傷ついた者も少なくない。少しでも安心させてやれるといいんだが…───身を寄せ合う仲間の姿を浮かべながら、メイスは荷物を積み込んだ車にもたれかかる相棒に声を掛けた。
「ゲーラ、行くぞ」
威勢のいい返事が返ってくるかと思ったら。
「…い、一本吸ってからでもよくね?」
この男は何を呑気なことを言うのだろう。メイスは内心憤った。こうしている間にもフリーズフォースが嗅ぎつけてこないとも限らない。調達した車で皆を引き連れ、また隠れ処を探さなくてはならないのだ。油を売っている暇はない。
「お前、何考えて…」
「見たくねぇんだよ…!」
はっとした。何を、だなんて考える必要はなかった。それは他ならぬメイス自身が押し殺していた感情そのものだったから。
収容所でその姿を見た時からずっと、シーマの容体が安定することはなかった。あらゆる手を施したが快方に向かう気配すら一向になく、ただ静かに横たわるだけの彼女に後ろ髪を引かれながら、二人は隠れ処を後にした。
分かっている。分かっているのだ。
灰となり散っていった仲間は数知れず。その度に感傷に浸っていては大勢の人間を束ねる幹部など務まるはずもない。
それでも。
「…泣くなよ」
泣いてねぇ、と呟く声は頼りなく溶けた。
メイスはポケットから煙草を取り出し何のためらいもなく自らの炎で火を付けた。ゲーラがぽかんとこちらを見ているのにもお構いなしで心底美味そうに嗜むと、薄灰色の煙がゆらゆらたなびくそれを手に取り空に向けた。
炎は静かに燃えている。失ったものも、憎しみも哀しみも、きっと訪れるであろう喜びへの願いも糧にして、燃え続ける。
炎は、消えない。
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