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とある少女の憎しみの話

巨大な炎の波が起きて、わたしは咄嗟にうずくまった。‬
怖い。
きっとあの炎にまかれて、今度こそ死ぬんだと。
耳をつんざく轟音。怖い。台風のような突風。怖い。身体を持っていかれそうになるのを、全身に力を込めて必死に耐えた。もう何分も何分も。周りからいろんなものが飛んでくる。視線の先にいた若い男の人の頭に、何処からか飛んできた何か(かつては何かの一部だったろうに、もはやそれすらわからない)が飛んできた。うあっ、と呻いて倒れ、そのままずっと動かなかった。
わたしは、着ていたパーカーの帽子を深くかぶった。そんな物、申し訳程度にもならないが、頭を守れるのはそれだけだった。
わたしは、走った。どこまでも走った。何処に行くかなんて考えていなかった。生きなければいけないと思ったから。絶対に生きて、父さんと母さんと妹が生きたかった分を生きるんだと。
おぞましいピンク色をした空と、燃やし尽くされたプロメポリスの街。記憶の中の故郷は、跡形もなく失われてどこにもなかった。
またそうやってわたしの世界を奪うのか。
どうして。
憎い。
憎い。
マッドバーニッシュさえいなければ。

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