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たちの悪い、朝の挨拶

 半開きのカーテンから差し込む日差しに呼び起こされ、メイスの朝は始まった。開けっ放しだったか…昨夜の記憶を呼び起こす彼の右腕にかかる重みと、視界を占める赤い髪。
「(あぁ…昨日、飲んで帰って、玄関、で…)」
 それ以外は断片的にしか覚えがないのだが、それは全て、すぐ隣ですうすうと寝息を立てる男のたいそう乱れた様であったし、何よりも、ベッドを共有している二人のどちらともが一糸まとわぬ姿であったので、この一夜の出来事を想像するのはたやすいことだった。
 メイスはひとつ息をつくと、やけに細いその背中を後ろから抱き寄せた。途端、んん、とむずがるような声が聞こえるもお構いなしだ。力を込める。
「ん…なん…」
「…ゲーラ」
 わざと耳元で囁いてやると、あっ、と消え入るような声と同時にわずかに跳ねる身体。それが面白くて、メイスはいたずらにその薄い背中に何度も唇を落とす。

「あ、ん…メイスぅ…やめろ、よ……!」
「やめない」
 左の脇腹に少し強めに吸い付いてみる。ゲーラは一層頼りなく鳴き、身体を震わせて悶えた。唾液を含んだ音と共に唇が離れたそこには、まるで痣のようにぼんやりと赤い跡が残った。メイスはそのまま上へと舌を滑らせていき、あまり肉のついていない彼の腕をそっと持ち上げながら、短い毛がまばらに生えるそこを尖らせた舌の先でちろちろと撫でまわす。
「あっ、あっ、だめだ、って…まじで、め、メイ、…っ」
 あくまで気まぐれの戯れだったのだが、期待以上の反応にメイスはひそかな愉悦を覚えた。彼の記憶では、この部分をどうにかしたのはおそらく初めてだったはずなので。
 背を向けられる形になっていたゲーラの身体を倒して仰向けにさせると、よく見えていなかった彼の表情が目の前に迫って、それはそれは可愛らしくて艶かしくて、メイスをこれでもかと煽った。
 なんといじらしいことだろう、そんなに頰を赤くして。まだ触れてしかいないというのに。
 こちらを見つめる潤んだ視線を振りほどき、無防備に開いた唇を塞ぐ。逃さんとばかりに絡みつく舌はメイスの化身だ。良く例えるなら「一途」、悪く言うなら「執念深い」。自覚がある。はっ、はっ、と短く何度も息を吐くゲーラを簡単には離してやらない。
 ゲーラの吐く息がメイスの肌に触れる度、その熱にうかされるように徐々に昂ぶる、メイスの身体。ゲーラの口内でねっとりと這い回るその舌の動きも、執拗さを増していく。
「んっ…は、はっ…め、いす…もう…っ!」
 すべてが終わった後、きっとゲーラはクレームを寄越すだろう。長い、激しい、ねちっこい、と。そうしたらこう返してやるのだ。
 煽ったお前が悪いのだと。

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