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【注意事項】
・ふたりはセフレ設定(行為シーンありません)
・前回、トレイに対する気持ちを自覚したケイトがトレイと距離を置こうとしますが、
トレイのやさしさに気持ちが深まってしまう、という内容です。
大丈夫そうな方は引き続きお楽しみください。
オレンジとショコラ
トレイのことが好きだと気付いてからは、カラダを重ねることを意識的に断るようにした。『体調がわるい』『単位やばくて』とかテキトーな理由をつけて、ことあるごとに断った。理由なんてなんでもいいし、トレイのことだから疑っていちいち詮索してくることもない。
オレたちはセフレだから、いわばヤろうと思えばヤれる関係。でもオレはそれを「好きなひととヤれてラッキー」などとは到底思えなかった。正直、どうにかしなきゃなって。でも、ちゃんとしなきゃ、って思った時、こんなに本気になったことなんてなかったってことにも気付いて、何をどうすればいいのかがひとつも分からなかった。
気付きたくなかったな。気付かないままだったら、他人との付き合いについてなんにも考えない、なんにも思わない、楽なオレのままでいられたのに。必要なのはきもちいいことだけ、あとのめんどくさいことはパス〜ってね。
気の迷いだということにしてやり過ごせたら、どんなに楽だろうね。気の迷い、かもなぁ。オレほんとに好きなのかな、トレイくんのこと。
もうさ、カラダの関係も解消して、当分は友人関係だけは続けてもいいけど、卒業したらフェードアウトして、いっそマジカメも全部消していなくなるのも悪くないよね。気がついてくれなくていいし、ましてや探してなんかくれなくても、いい。
「ケイト、ちょっといいか」
寮の廊下で、トレイがオレを呼んだ。なんだろう、寮のことでなんかあったかな。夜の誘いはメッセアプリでって約束だけど。
「今日の夜、キッチンに来てくれないか」
「新作なんだ」
オレンジとショコラのクッキー。──そう言ってトレイが差し出したお皿に乗ってたのは、丸い形をしたクッキー。オレンジ色のまわりを縁取っているのはショコラのブラウンかな。
「ちょっとぉ、トレイくんってばオレが甘いの苦手なの知っててさー」
「まぁまぁ、ひとくちだけでいいから。な?」
はー、なんなの。人選ミスでしょ、トレイのお菓子食べたい人なんてそこらへん探せばいくらでもいるじゃんね。ドゥードゥルスートしてくれる気配もないし。親指と人差し指でつまんだクッキーはとてもきれいな円形で、色の境目もきれいに別れててプロが作ったような出来栄えだった。それにしてもきれいなオレンジだね。
ぽいっと口に放りこむ。クッキーが口の中でほろほろと崩れる。オレンジの酸味とショコラのほろ苦い風味がほんのり広がってく。生地に練りこまれたオレンジピールが時々顔を出して、違う食感が楽しい。なにより、甘すぎない。おいしい。そう感じてトレイを見ると、少しホッとしたような表情で笑った。
「なんでオレンジ? 旬?」
「……好き、だから」
何秒間か沈黙するオレら。
「……一応聞くけど、なにが?」
「あーいや、ほら、オレンジは身体にいいだろ。それに酸味があるからお前でも食べやすいかなと思ってさ」
好きでよくお菓子づくりに使うんだ、だって。いや、なにそれ。どゆこと? なんの動揺? とりつくろう様があまりにらしくなくて、おかしくて、オレは吹き出した。
「……よし、すこし元気になったな」
え?
「お前、最近元気ないように見えてな。……気休めにでもなればと思ったんだが」
まぁ試食に付き合わせただけだけどな、って。
なんだよ、それ。やさしい。やさしいの、やめて。やさしくてむかつく。むかつく。また泣きたくなるからやめて。それにさ。
「はは、なにそれ〜」
好きなひととの思い出があまずっぱくてほろ苦いとかほんと、ほんとくそダサくて笑っちゃうから、やめてよ。
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